型による宙吹きガラスの装飾
宙吹きガラスを吹いている途中で型を使って模様を付け、更に吹いて膨らませ、モール装飾を施す技法があります。これはローマ帝国内で製造・流通したガラス製品に施された装飾として考え出された技法です。
紀元前後に栄えたローマ帝国では盛んに吹きガラスが作られました。これをローマングラスと呼びます。
紀元前4世紀から領土を拡大してきたローマは紀元前1世紀になると、主要なガラス産地であるシリアやエジプトを支配するようになります。
このころ吹きガラスの技法が発明され、画期的な方法として急速に広まりました。
1世紀になり、熔けたガラスを型に吹き込む型吹きガラスの技法が開発されました。型吹きにすることで、成形と装飾が同時になされるわけです。
ローマ人の好んだモチーフとして鳥もあります。青地に白地を被せて、白地の部分を浮き彫り彫刻にした、「カメオ・ガラス」も生産されました。
ローマ時代のカメオガラスは大変な手間をかけたものです。19世紀になってからは薬品でエッチングすることができるようになりましたが、ローマ時代はひたすら金剛砂と炭素鋼のヤスリで削りだしていたようです。被せガラスになっていますので外側の白地の余分な所を削って青地にするわけです。
江戸時代、日本で始めて切子細工が行われました。最初の切子細工は透明ガラスに模様を彫りこんだのです。これが先のローマのようにヤスリと金剛砂で削りこんで作られました。この切子細工は気が遠くなるような時間を要します。しかしとにかく江戸切子が完成しました。その後、その技術は薩摩に渡り、薩摩切子として発展します。薩摩切子は被せガラスになっており、ホイールで切削されました。その薩摩切子の技術が逆に江戸切子に伝えられています。現在の江戸切子の多くは着色層を持った2重になっています。江戸切子のルーツはローマにあったのかもしれません。
シドン近辺では、型によって銘を入れたものが生産されています。銘は、製作者名や標語など様々でした。さらには戦車競技や剣闘士の試合を描いた「サーカス杯」と呼ばれるものが1世紀後半から出現しています。
吹き技法の発展に伴い、宙吹きの途中で凹凸のある型を使って紋を施したあと、さらに膨らませるという方法がとられました。つまり部分的に型吹きにするわけです。
これを「モール装飾」と言いますが、当時盛んに用いられています。
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